内容:あゆみと出会ったのは先月のことだった。こういった事務所をしていると様々な事情を抱えた娘と触れ合うこととなる。あゆみもその一人だった。スカウトの一人が泣きはらした目を真っ赤にした女の子を連れてきた。どことなく雰囲気が暗い。いつもは女の子を乗せるためにも高いテンションで話をまくし立てるスカウトがこんな空気を出すなんて…これは重い話になりそうだと覚悟を決めて彼女から話を聞く。話を聞いて唖然とした。単なる痴話喧嘩ではないか。「話を聞いたらなんか可哀想になっちゃって」なんてのたまうスカウトには後で説教が必要だな…なんて考えていると、彼女が語る内容に糸口を見出した。彼女は彼氏から暴力をずっと受けていたのだそうだ。他人から見れば、別れればいいのにと単純に感じるかもしれないが、当事者からすれば「いつかあの優しい彼に戻ってくれる」「たまに優しい時もある」「私さえ我慢すればいい」なんて悲劇のヒロイン気取りである。正直オツムがカルい女なんだろうと思った。そんな事態なら十中八九男は新しい女を作っているものだ。そんな状態でさえ男を捨てきれないこの女に真実を告げてやったらきっと自暴自棄になるだろう。そこに付け込めば…いい暇つぶしにもなるし一石二鳥だ。そう思いつき、「協力してあげる」なんて言うと、あゆみは「それでも彼を信じてる」なんて言うのだった。まぁ結論は見えているが、どこまでもヒロイン気取りなこの女にはいい薬だろう。しかし、念には念を入れるため、彼氏に女を宛がってやった。宛がった女には適当にメールをさせて一緒に食事に行かせた。これで準備は万端だ。あとはあゆみを適当に誘導し、見事彼氏の浮気の証拠を押さえさせることができた。案の定彼女は自暴自棄になった。酒を飲ませ、本題へと促す。「彼にあゆみと別れたことを後悔させたくはないか?あゆみがいい女だったって思わせたくはないか?」こう持ちかける私に彼女は少し驚いた面持ちを浮かべた後、少し笑い「何をすればいいの?」静かに尋ねてきたのだった。