内容:目を覚ますと、エミは見覚えのない部屋にいた。まただ、と思った。エミは時々、いつの間にか気を失っていて、気がつくと見知らぬ部屋に閉じ込められている事がある。その度に、目の前に出される条件をクリアしなければ外には出られない。ある時は謎解きの装置があったり、またある時は他人が一緒に閉じ込められていることもある。今回は後者であった。ある条件をクリアする――この撮影を無事に終わらせること――ができれば、エミは外に出ることができる。何故エミは、こんな理不尽で意味不明なイタズラに素直に従っているのか。それは、エミはこのイタズラの犯人をよく知っていて、どうしてこんなことをするのかということも、薄々分かっているからだった。エミは昔から酷い人見知りで、人の目を見て話すこともできなかった。他人と関わることにおいて、逃れられないようなプレッシャーがかかった時に、気を失うようになった。と、思っていたのだが、気を失っている筈の時間に行動した形跡が残っていることが多々あった。エミは、解離性同一性障害、いわゆる多重人格になっていたのだった。親しい人に話を聞くと、別人格のエミはメガネをしておらず、堂々とハキハキと喋り、性に奔放である事が分かった。それはエミがそうありたいと願っていた自分の像そのものだった。別人格のエミが仕掛けるイタズラは、おどおどしているエミへの試練であり、それを乗り越えていくことによって、2つの人格のエミがまたひとつに戻れるように思われた。