内容:泡沫の日々。自分の人生は泡のようなものだ。彼女はそう思っていた。幼い頃。優しくも教育熱心な母は彼女に色々な事を習わせようとした。ピアノに書道、水泳、生け花・・・etc自分からやりたいと言う事もあった。だが大人になった今、ピアノなんて弾けないし、字だって綺麗ではない。結局の所、何一つ身についてはいなかった。それもそのはずだ。思い返せば真剣にやっていたものなど何一つない。母から言われたからと、めんどくさがりながら適当にこなし、自分でやりたいと言い出したものも、次第にめんどくさくなって結局何もやらなくなった。そうして残ったものはなんだろう。そんな事をぼんやり思った。もうほとんど忘れてしまった、中途半端な技術と知識。それぐらいしか思い当らない。あと強いて言えば人格形成の過程で、良くも悪くも何かしらの影響はあった可能性はある。実際はどうなのだろう。自分勝手で人見知り、友達の少なかった彼女の暇つぶし程度にはなっていたのかもしれない。だがどうせその程度。結局は無に等しく思えた。大学でで知り会い、卒業後に結婚した夫とは先月離婚した。旦那の暴力や浮気なんてよくある理由は特に無く、しいて言うならばお互いがお互いの存在に意味を見出せなかったからと言えば言いのだろうか。ルームシェアの共同生活者。そんな言葉がしっくりくる。いつの間にそうなってしまったんだろう。昔はあんなに愛していると思っていたのに。きっと思ってくれていたのに。あの時愛しているとささやいた夫の言葉は心底本気だったのだろうが、そんなキラキラした想い出も今では黒くくすんでしまった。だがそれは自分も同じこと。自分の人生なんて結局そんなものなのだろう。だって辛くなるとすぐ逃げ出すから。それでも何も掴めないわけじゃない。だが、掴んだものは大抵偽物なんだろう。いつか弾ける時が来る。今まで通りのそんな人生がきっとこの先も待っている。泡のような人生だ。なんかもうどうでも良かった。得る事のない人生なんだからとりあえず楽しもう。そう考えると気が楽だ。とりあえず、お金が欲しかった。そして、彼女はアダルトビデオへの出演を決めたのだった。