内容:平凡……これといって特徴のないこと。人は大抵それを嫌う。平凡だと誰も目に止めてくれないからだ。人によって差はあれど、少なからず心のどこかに「目立ちたい、他人より何かに抜きん出たい」という願望があるだろう。しかしその願望も、度を越すとかえって自分を見失うことにもなりうる。これから登場する女性がそれを物語っている。彼女の名はかおり。またの名を「オーディナリー・かおり」彼女も、自身の平凡さに悩む一人であった。中学1年頃……いわゆる思春期に差し掛かった頃にはその感情が特に顕著になり、とにかく平凡な自分を変えようと必死になった。それこそ、勉強に打ち込むことから、髪を染め派手なアクセに身を包んだりと、良悪に限らずありとあらゆることをやり尽くした。しかしそれで得たものは、自分の趣味や性格に合わないことばかり無理やりやってきたことによる心労だった。絶望に打ちひしがれる彼女を救ったのは、高校時代、当時付き合っていた彼氏の言葉。「背伸びなんてしなくたっていい。君は十分に輝いている。だって現に、君は僕という男が君を振り向かせたんだから」。そこで彼女の脳に電流が走る。ああ、そうだ。別に能力や趣味趣向が平凡だっていいじゃないか。自分は女だ。そして並の女ほどには、男を作り、子孫を残したい欲があるようだ。だったらほかのことは一切捨てて、男を振り向かせることに全力を注ぎ込もう。本能に基づいたものなら飽きずに続けられるだろう、と。ちょっと彼氏の言葉を変な方向に受け取ってしまったかおりだが、おかげで吹っ切れることが出来た。そうして、生まれたのが、平凡を味方につけた女「オーディナリー・かおり」だ。何を聞かれても「なんとなく」「普通」でごまかしておき、敢えて平凡さを強調する。それでいて狙った男にはいやらしい姿を見せつけ確実に仕留めていくのである。平凡が疎まれる競争社会が生み出した、美しくも恐ろしい魔物「オーディナリー・かおり」……その姿をとくと目に焼き付けていただきたい。