内容:最初に彼女を見た時の印象は「今時の若い子」だった。明るくノリが良く、ちょっとしたことですぐに笑う。ギャルっぽいメイクをしているけど顔のパーツ自体はかなり整っていて、これならきっとすっぴんでもかなり可愛いだろう。実際に彼女は男ウケが良いらしく、ナンパやキャッチ、スカウトなんかに声を掛けられることは多いという。ただ、話と話の合間にほんの一瞬だけ見せる憂いを帯びた表情が、彼女が何かしらの不安や不満を抱えている事を物語っていた。彼女の名前は「みくる」。年齢は22歳で、現在デリヘルの仕事で生計を立てているらしい。22歳と言えば世間ではまだ花盛りな年齢で、将来の夢や恋愛など様々なことに希望が溢れている時期のはずなのだが、彼女が不意に見せる悲しげな瞳の奥には、それらの輝かしい光達は見られなかった。それは彼女の仕事も関係しているのであろうが、彼女には未来に対しての希望が全くと言って良いほど無く、現在を生きるのに必死で、何かを選び取るという余裕すら持ち得ないのである。もちろん、彼女は最初からデリヘルとして生きていこうと思っていたわけではない。華やかなショップの店員に憧れ、過去には実際に洋服やアクセサリーの販売員として店に立っていたこともある。しかし、現実は彼女の抱いていた理想とかけ離れており、数年も経たずして彼女はショップ店員の仕事に見切りをつけた。夢を失った彼女は、とにかく生活のためにと時給の高いスロット店のアルバイトを始めたが、それも長くは続かなかった。職を失い途方に暮れていた彼女は、たまたま街でスカウトされたデリヘルの仕事を始めた。若い時には風俗の仕事を軽蔑視していた彼女だったが、夢も職も失った現在、彼女は自分の将来などもうどうでも良くなっており、とにかく生活をするためのお金が必要だったのだ。幸い彼女はその整った顔のお陰で客の付きが良く、稼ぎは今までのどの仕事よりも良かった。彼女自身もセックスは嫌いではなかったため、仕事自体も大した苦痛ではなく、それほど苦労せずに人並みかそれ以上の生活を送れるようになった。しかし、生活には余裕ができたものの、仕事が仕事だけに未来が明るいとはとてもではないが言えない。何の取り得も無い自分でも長く続けることのできる新しい仕事を探し始めたちょうどその頃、デリヘルのスカウトをしてきた人物からAV出演の話が来た。仕事の内容としてはそれほど大きく変わりはしないが、デリヘルよりも安定して稼げる仕事。そして何より、彼女にとっては「デリヘル嬢」ではなく「AV女優」になるということが素晴らしく輝かしいことのように思えた。多少の不安は拭いきれないが、この機会を逃せば次にいつチャンスが巡ってくるかわからない。「話を聞くだけ」という名目を立てて自らの足でそこへ赴き、ゆっくりと一つ深呼吸した後に、彼女は力強く事務所のドアを叩いた。